天王寺たまきは少し寂しい

このツイートの長い版。ミオチャァンかわいいねぇ
少しぬるいエロがあるけど気にならない程度だと思われます。
会社の同僚にドタキャンされて、一人予約した店に向かう。安い酒を煽り、最近のJPOPが流れる店内は、平日だからか賑やかさに欠けていた。
「あれ?ーーさん?」
ぼくのことを親しげに下の名前で呼ぶ彼女の声がして、顔を上げる。
「久しぶり」
それは、大学の同期だった天王寺たまきだった。
懐かしい顔に、口角が上がる。
彼女は、当時いつもつるむメンバーの一人で、よくノートを借りたり、出席の肩代わりをしてもらったりした仲だった。
今ではすっかり疎遠になってしまったが。
懐かしい話は、居酒屋の空気を華やかにする。
「そういや今何やってんの」
うっかり聞いた一言が、雰囲気を一変させるとは、その時は知る由もなかった。
「……あんさぁ、私学生のとき付き合っとった男がおったやん」
その瞬間、暗雲が彼女の周りに立ち込める。ぼくは、やっとこの話題が地雷ワードだということに気がついた。
「もしかして……」
「うん、君が想定しとる人間で合うとるよ」
重いため息は、徐々にぼくの酔いを覚ましていく。
たしか、彼は僕らのグループにいたたまきの幼なじみだった。
入学してすぐに交際へと発展し、当時は仲睦まじい姿に何度も妬ましい気持ちになったが、まさか、その彼と上手くいっていないなんて、想定外だ。
「同棲しとってん、でも……ちょうど去年の今くらいの真冬にさ、いつもみたいに家に帰ってん」
まさか。
「そのベタベタな展開通りや。部屋に女連れ込んでイチャコラしとったんや……っく、今思い出しても腹立ってくる」
ため息しか出なかった。何をしているんだと呆れることしかできない。
「だから、私は今ぼっちで酒飲んどるっちゅーこっちゃ!」
わざと明るく振る舞う彼女に、心が痛む。
いい雰囲気だと思っていたのにこんなことになっていたなんて。
「やでなー、寒い日はあいつのこと思い出してまうねんやほんま敵わんわ」
かける言葉が見当たらないとは、まさにこのことを言うのだろう。今は、彼女から紡がれる絶望譚に耳を傾けるのみだ。しかし、辛い話を聞いているはずなのに、酒のペースだけは上がる一方だった。
ははは、と笑いながら机に突っ伏する彼女。しかし、ぼくは彼女の目元が潤んでいることを見逃さなかった。体が疼き、ごくりと生唾を飲む。こんな発想に至る自分は、なんて非道い男なのだろうと嫌悪した。それでも酒が入った今ならば、なんだって言える気がした。
「このあと、家で飲み直さない……?」
彼女が、トロンとした目でこちらを見、それからにこりと微笑む。
「あんたも、寂しいんやな」
それだけ言うと、彼女はぼくのネクタイを掴み、触れるだけのキスをした。
「後悔せえへん?」
ぼくから誘っておいて後悔など、あるわけない。
「しないよ、たまきは?」
無意識に名前を呼び、それからこちらからもキスをする。
ムードに不釣り合いな、軽薄なアイドルソングが邪魔だった。
お会計をして、怪しげなネオンが煌めくホテル街へと向かう。
互いに手を繋ぐ姿はどこからどう見てもカップル同然だった。
「帰るなら今だよ」
最後の理性を振り絞り、彼女に詰め寄った。
でも、そんなものは今更必要ないみたいだ。彼女が絡めた手を強く握り、ぼくの方を見つめる。
「上手かったら付き合うたってもえぇよ……なんてな!」
「っ余裕ぶりやがって」
今に見てろよ。と、余裕のないぼくが噛みながら呟く。
数ある中で、一際輝きを増すホテルの前へ到着したぼくらは、当然のように隣同士で入店する。
そして……。
翌朝、ぼくたちは晴れて恋人同士となって、ホテルを後にしたのだった。
おわり。

バーチャルキンメダイの倉庫

推しの誕生日を祝ったり、作品を載せたり雑多。 スマホ推奨。

0コメント

  • 1000 / 1000