精神を患ったミオちゃんの話
精神を病んだマスターが言う。
「人は死に向かって生きているのだ」と。
では……。
でんこは、どこにむかえばいいの?
随分昔から、マスターはわたしになにも教えてくれなくなった。それどころか耳にタコができるほど言ってくれた『好き』の言葉さえ、最近はご無沙汰だ。
「マスター……」
言いかけて、口をつぐむ。わたしの声はきっと聞こえていない。
マスターの陰鬱そうな顔をじっ、と眺める。あれほどよく笑う女性が、今はスマホの光だけが煌々と光る部屋で一日中『死』について考えている。
「ミオちゃん」
もう何日もなにも食べていない口が、久しぶりに食んだ空気の味は、美味しいのだろうか。
「でんこはどうしたら死ぬの?生きるってなに?」
まるで、かつてのわたしのようなことを云う彼女は、きっとわたしの答えを聞き入れられないだろう。
すなわちマスターに口ごたえをするでんこということになる。
そしたらわたしは遠い未来で、鉄屑となる。
そうは言っても、このマスターとは、もう何ヶ月もお出かけの記録を集められていない。
言うも地獄、行かぬも地獄。
こんなことなら感情などという余計なものはいらなかったのに。
目の前が真っ暗になる。感情が無ければ無茶ができたのに。
「マスター……たすけて」
○○○
マスターNO.***の×××は今し方、ステーションマスターの資格をうしなった。
おわり。
0コメント